東京高等裁判所 昭和35年(行ナ)107号 判決 1965年9月11日
原告 アクチエンゲゼルシャフト・ブラウン・ボベリ・ウント・キー
被告 三菱電機株式会社
主文
特許庁が昭和三二年審判第一二八号事件について昭和三五年四月一九日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
〔当事者の申立〕
一、原告 主文同旨の判決を求めた。
二、被告 「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。
〔当事者の主張〕
第一、原告の請求の原因
一、原告は、特許第二二二、八八一号(発明の名称「圧力下で流れる消弧媒体を有する遮断器」)の特許権者であるが、被告は、昭和三二年三月二〇日右特許を無効とする旨の審決を求めて審判の請求をした(昭和三二年審判第一二八号事件)。特許庁は、昭和三五年四月一九日右請求どおりの審決をし、その謄本は同年五月一一日被請求人(原告)の代理人に送達された。なお、右審決に対する出訴期間は特許庁長官の職権により同年一〇月一〇日まで延長された。
二、前記特許発明は、西暦一九四三年(昭和一八年)六月二八日のスイス国への特許出願に基き、日瑞工業所有権協定第一条による優先権を主張して昭和二九年九月二〇日わが国に出願され、昭和三一年六月八日に特許されたものであつて、その要旨として、明細書の特許請求の範囲の項に記載されている事項は「圧力下で流れる消弧用媒体と、該消弧媒体によつて閉合力に抗して開く接触子とを有し、消弧後は消弧媒体の流れが流出側において阻止され、このために開放した接触子が媒体の圧力下に置かれるようにした遮断器において、消弧媒体の流入側における主弁の制御によつて、単に接触子の開放と、消弧が行われ、且つ流出側における媒体の流れが阻止された後は、開閉室内の圧力が保持されるだけでなく、更に該弁によつて開閉室を空にすることによつて接触子の自動閉合と、排気口の開放が行われ、開閉室内の圧力は、接触子の閉合によつて遮断器が投入されるまで保持されることを特徴とする遮断装置」である。
三、審決は、本件特許発明の要旨を右のとおり認定したうえ、請求人(被告)が、甲第一号証として提示したドイツ国特許第六九〇、三七二号明細書(昭和一五年一〇月一五日特許局陳列館受入れにかかるもの)を引用し、これに本件特許発明の要旨が悉く開示されているとし、その理由として次のように説示している。すなわち、右引用の明細書に記載された遮断器も、「消弧媒体の流入側に設けた制御弁Dが開かれると、空間B、i、a中に圧力下にある消弧媒体が到達し、その結果、可動接触子fは、発条pに抗して開放され固定接触子eとの間に電弧を発生するが、その電弧は開口bから流出する消弧媒体の流動により吹き消されるものであり、且つ圧力下にある消弧媒体が開口oまたはシリンダーmへの管を経て阻止弁q(gの誤記)の制御ピストンに達し、これを発条hに抗して動かすことによつて開口bが接触子の開放より或る遅れをもつて閉塞され、空間B、i、aには圧力下にある消弧媒体が充満するものである。」そしてまた、「閉合の状態で大気中に開口をもつ前記制御弁Dを閉じることによつて、空間B、i、aに充満している圧力下にある消弧媒体が大気中に放出され、その結果、発条pおよびhの作用で遮断器の接触子が閉合されて遮断器の投入が行なわれるものである。」とし、なお、両者の遮断器における(1)主弁の構造・動作、(2)接点の数、(3)遮断器の任務・用途・実施態様・遮断状態における動作等の点は、本件特許発明の要旨外の事項である旨を述べ、本件特許発明の明細書の「発明の詳細なる説明」の末尾および附記第三ないし第八項に断路器との併用についての記載の存することを指摘し、結局、請求人が甲第二号証として提示した特許第一三七、八八一号明細書を俟つまでもなく、本件特許発明は、その優先日前に国内に頒布された刊行物である前記ドイツ国特許明細書に容易に実施することができる程度に記載されていたものと認められ、したがつて旧特許法(大正一〇年法律第九六号)第四条第二号の規定により同法第一条の新規な発明に該当しないので、本件特許は右第一条の規定に違反してなされたものであると判断しているのである。
四、しかしながら、審決は、次に述べるように判断を誤つたものであり、違法な審決として取り消されるべきである。
(一) 本件特許発明の新規性
1 審決引用の明細書は、ドイツ国特許第六七四、六五二号発明(原告が出願人として特許されたもの、以下BBC原特許発明という。)の追加特許にかかる発明(以下引例発明またはBBC追加特許発明という。)の明細書である。本件特許発明は、右BBC追加特許発明、したがつてまたその基礎であるBBC原特許発明における技術思想を母体として発展したものといえる。しかし、これらの母体の技術水準を出発点としながらも、極めて顕著な技術的一大飛躍を敢行したものである。
当初の空気遮断器は、高圧大電流を遮断する目的に主力が集中され、交流遮断器として欠くべからざる「電圧分離」(両接点間の絶縁、開路状態の確保)および「投入」の両作用を、遮断器と直列に設けられる補助開閉器に委ねていたものである。すなわち、初期の空気遮断器は、BBC原特許明細書の序説部分からも了解されるように、いわゆる自動弁(閉鎖摺動子)がなく、単に一個の主弁(制御弁)のみで圧縮空気の流れが制御されていた。回路の遮断時には、主弁を開いて圧縮空気を遮断室に導入して接点を開き、気流の吹付効果により消弧を完了し、消弧後も気流をそのままに維持しつつ、別に直列に設けられている補助開閉器すなわちいわゆる断路開閉器を開き、然る後主弁を閉鎖して気流を止めており、したがつて、この遮断器の接点は回路の開放後も閉合しておくものである。前記補助開閉器は、開路時の電圧分離(開路状態の確保)を受け持つたばかりでなく、次の投入をも行なつたのである。〔この「投入」(Einschalten)と「閉合」ないしは「閉成」(Einschliessen, Einlegen)とは明確に区別されなければならない。すなわち「投入」は電流の流れを予期する動作であり、接点の接触とともに起電力を含む回路が完結される動作である(JEC一四五における「投入容量」なる術語についての記載参照)のに対し、「閉合」、「閉成」は、接点が接触しても電流の流れることを前提としない接点閉合の動作をいうのである。〕したがつて、前記のような遮断器は、これと直列に設けられる補助開閉器と相まつてはじめて一個の遮断器としての任務を遂行することができたわけである。
従来の油遮断器では、電流遮断、電圧分離および投入の各機能が概ね同一接点において行なわれているが、この場合でも、電源側には断路器を挿入設置するのが通例である。これはいわゆる見取用の断路器であつて、これと、前記のように従来の空気遮断器に附属しその機能の一部を分担する補助開閉器とは全く別物であり、その性能、構造を甚だしく異にすることはいうまでもない。
ところで、BBC原特許発明はもとより、その追加特許にかかる引例発明も、電圧分離および投入の機能を補助開閉器に委ねていることにおいては原始形の空気遮断器と変りはない。この当初の空気遮断器にあつては、前記のように、圧縮空気の流れを維持しつつ補助開閉器の開路を行なわしめるようにしていたが、この圧縮空気の消費量を節約するため、前記形式のものの流出側に自動弁を設けたものがBBC原特許の遮断器である。ところが、このBBC原特許の遮断器には、その自動弁と主接点との剛性連結(ピストンが共通)による欠点があり、すなわち吹付時間に不足をきたす傾向があることが後に実験上明らかにされたので、主接点および自動弁にそれぞれのピストンを設けてその間の関係を可撓的ならしめることにより吹付時間に余裕をもたせるようにしたのが引例のBBC追加特許の発明である。(これを具体的にいえば、消弧に要する吹付時間を例えば二サイクルとし、自動弁の閉鎖以前にさらに例えば一サイクル(一〇〇分の二秒)ないし数サイクル程度吹付けの打切りを遅延させるような処置を講じたものにすぎない。)これに対し、本件特許発明は、前記BBC原特許および同追加特許の遮断器において必要とした直列の補助開閉器を全然不要とし、従来補助開閉器が受け持つていた電圧分離および投入の各機能をも遮断器自体に行なわせるようにしたものであり、これによつてその構造、機構が著しく簡単化されたものとすることができたのである。本件特許発明によつてはじめて、遮断器自体としてJEC規格に適格たり得る、いわゆる開路時充気式空気遮断器の完成をみたわけである。
2 明細書の特許請求の範囲の項に記載された本件特許発明の要旨は、前記二で述べたとおりであつて、「圧力下で流れる………遮断器において」という前提事項と「消弧媒体の流入側における………を特徴とする遮断装置」という特徴事項とから成り立つている。右前提事項は、具体的表現を用いて端的にいえば、「排気側に自動弁を具えた空気遮断器において」という含みをもつものにすぎない。そして特徴事項は、「接触子は、吹付けによつて開路すなわち遮断動作をなし、次に投入が行なわれるまで開閉室の媒体圧力が常態的に確保されること」を正面的要旨とし、これを裏からいえば、媒体圧力が取り去られることにより投入を行なうことを示しているのである。すなわち、本件特許発明の遮断器は、「遮断器の開路中遮断室が常態的に加圧状態に置かれ、自らの遮断接点をもつて回路の投入をも行なう」ものである点に特徴が存するのであり、このことは特許請求の範囲の記載から十分認められるところである。BBC追加特許発明の遮断器において「排気側に自動弁が設けられ、消弧が行なわれた後、流出側で消弧媒体の流れが一旦阻止される」にすぎないのと全く趣を異にする。換言すれば、BBC追加特許発明は、本件特許発明の要旨中前記前提事項の技術水準を越えるものでなく、前記特徴事項は全く新規なものである。
3 引例発明と本件特許発明の相違は、審決引用の明細書の記載、特にその中に、「電圧分離を受け持つ直列気中開閉器は簡単のため省略されている。」(一頁四〇―四二行)、「消弧が終れば、電力開閉器と直列に接続されている図示されていない気中開閉器が開放した後、前記発条は接点(f)を再び閉の位置にもたらす。」(二頁一三―一七行)、「遮断過程中圧力下に置かれる室」(二頁二六―二七行)、「気中断路器が再び閉成される以前に、電力遮断器を閉成状態にあらしめるため、室(B・i・a)を支配する圧力は取り去られてあらねばならない。」(二頁八七―九一行)等の記載があることに、BBC原特許発明の明細書中に、「断路開閉器(E)がその開の位置に達するや、制御弁(D)は閉塞されねばならない。」(二頁左欄五五―五七行)、「そこで断路開閉器(E)は再び投入され得るようになる。」(二頁右欄一―三行)との記載があることを参酌し、本件特許発明の明細書の記載と対照し容易に認められるところであるが、さらに引例明細書と本件特許発明の明細書の各図面をも併せて考察すれば、前記の相違は一そう明らかとなる。すなわち、本件特許発明のように、遮断室が例えば一五気圧というような高い空気圧力を、制限のない時間にわたつて確実に保持するに足るものとするためには、この遮断室に厳密な気密性が保たれることが緊要不可欠であることはいうまでもない。そこで、本件特許発明の自動弁について、次のような考慮が特に払われていることが、その明細書の図面から看取されるのである。すなわち、自動弁(g1~g4)は、そのピストンに小孔が設けられており、主弁の開放によつて遮断室に進入した空気の圧力により、ピストンは容易に推されて排出口を開き、接点間に十分な吹付けを行なわせることができるが、やがて前記ピストンに逆に作用する発条を内蔵する方のシリンダ室の空気圧は、前記小孔により、若干の時延を置いて、遮断室内のそれと均衡するから、発条力によつて弁は閉鎖され、ピストンの内側および外側の加圧面積の差に相当する面積に作用する空気圧力がピストンに対し最初と逆の方向に作用するので、この圧力と発条力は共動して、極めて強力な密閉作用を生じ、適当なパツキン環を設けておけば、極めて高度な気密効果が得られ、長時日にわたり、信頼し得る確実な圧力保持を可能ならしめる。なお、可動接点側のピストン構造は、外界との連通という重要事項以外は、極めて概略的に表示されているにすぎないが、ここにも前記自動弁の気密性に比肩される密閉手段が施されているものと推定することができる。ところで、もしも引例発明の遮断器も、本件特許発明の遮断器のように、遮断室の加圧状態を長時間にわたつて維持すべきものであるとすれば、気密性についての考慮も同じ程度に払われていなければならない筈である。
しかるに、引例明細書に図示されているような自動弁の構造では、高い空気圧に対してほとんど密閉能力がないことは極めて明瞭である。なお、同図面においてシリンダ(q)の内部は、ピストンの下側の室が外界と連通していないのであつて、このようなシリンダを用いて圧縮空気の加圧により発条力に抗してピストンを運動させても、長時間加圧状態が保たれると、漏洩のためピストンの両側の圧力が均衡するようになることがあり得るから、全く予期しないときに発条の作用で接点が閉合するという重大な危険を包蔵することになる。しかし引例発明の遮断器において加圧状態となるのは、いわゆる「遮断過程」の間だけであり、断路接点の手動開放に要する僅少秒の間にすぎないという条件さえ卒直に容認するならば、自動弁の漏洩も、図示のようなピストン室と外界との関係も、少しも問題とはならない。また、後にも述べるように、断路接点の開放後は、遮断器のあらゆる部分が休止の状態に置かれることになつており、これも気密性に信頼を置くという考え方に立脚していないことを示しているものといえる。以上のことからみて、引例発明の遮断器においては、本件特許発明の遮断器のように厳重な気密性を必要とするような機能は全く意図されていなかつたことが明らかである。そしてこのことは、引例発明の遮断器の遮断室が加圧状態に置かれるのはただ「遮断過程」中だけであつて、そこには、本件特許発明にみられるような、遮断器の開路中遮断室が常態的に(次に投入が行なわれるまで)加圧状態に置かれるという意味でのいわゆる「開路時充気」の思想は全然包含されていないことを示しているものといわねばならない。
さらにまた、遮断器の動作過程の点からみても、引例発明の遮断器の動作過程においては、主接点は断路接点の開路以前には再閉路しないように、閉合が遅く行なわれなければならないという意味で一時的関連があるにすぎず、遮断指令により遮断器が開かれると間もなく断路器(補助開閉器)が開放し、そこで主接点が再閉合するのである。したがつて、主弁は、単一の遮断指令によつてこれらのすべての開閉運動が遂行され得るようになつているというにすぎない。右主弁は投入指令を受けて動作するということはなく、投入は補助開閉器によつて行なうのである。これに反し、本件特許発明の遮断器では、主弁が、投入および遮断に対しそれぞれ別個の指令を受け取つて動作するものである(遮断器の主回路における態様および開閉指令との関係に関するかぎり、従来の油遮断器と同様に考えることができる。)このこともまた、明細書の記載から十分読み取れるわけである。
4 なお、本件特許発明の明細書中附記第三項以下には、断路器を併用する場合についての記載があるけれども、ここにいう断路器は、前述のいわゆる見取り用の断路器であつて、この断路器は、遮断器の開路に随伴して開路させなければならぬというものでなく、また投入に先立つて必ず閉路させておかねばならぬものであつて、遮断容量も投入容量も必要としないものである。引例発明の遮断器に附属する補助開閉器が、遮断器が開かれたときには必然的に開かれねばならぬもので、これによつて投入を行なう関係上投入容量をもたねばならないのと対照し、本質的に相違するものである。すなわち、附記第三項以下の記載は、本件特許発明の遮断器の特殊の使用状態として、見取り用の断路器が、従来の油遮断器等に併用される場合と同様の関係において、連動操作される場合に関するものであつて、遮断器の性能自体には関係がない。因みに本件特許発明と同一内容であるドイツ国特許第七六二、四九六号発明の明細書では、右附記に対応する項は削除されている。
5 本件特許発明の遮断器とBBC追加特許発明の遮断器とには顕著な相違があり、後者が前者の特徴を具えていないことは以上のとおりである。審決において、本件特許発明の要旨が引例発明の明細書にすべて開示されていること、殊に引例発明の遮断器も投入を行うことを認めているのは全くの誤認であり、前述の附記第三項以下の記載を両者に相違がないことを認める根拠の一つとするかのような説示をしている点、および主弁の構造、動作の差異は本件特許発明の要旨外のことであるとして軽視している点も、これらに関する明細書の記載を正解しないことに基く不当な認定ないし説示であるといわねばならない。
(二) 本件特許発明の進歩性
本件特許発明が、引例のBBC追加特許発明およびその原特許発明を母体として発展したものであることは既に述べたところであるが、しかしそれらの発明から容易に推考し得るものということはできない。
本件特許発明の遮断器も、引例発明の遮断器も、遮断接点が加圧されたガスの中に対立する状態を経験すること、換言すれば自動弁が使用される遮断器であるという点においては共通している。しかし、前述のように、気密性ということについて、一方は甚だ安易低級なものであり、他方は極めて厳重なものであることが明らかにされていることからみても、両者間に本質的な相違があり、その転移が容易なものでないことがわかる。元来、引例発明における遮断室を加圧状態におくのは圧縮空気の量を節約するのが目的であり、しかも秒単位の瞬時ともいうべき遮断過程中だけのことである。したがつて気密性が、それほど厳重なものでなくてもたいして問題はなかつたし、またBBC追加特許発明当時には、本件特許発明の遮断器に使用されるような、長時間にわたつて完全な気密性を保つような自動弁は一般に使用されてもいなかつた。であるから、本件特許発明の「開路状態が持続するかぎり、すなわち投入の瞬間まで、時間に制限なく、常態的に、圧縮空気による加圧状態を確実に維持する」という着想は、当時としては、当業技術者でも夢想もできないことであつたと考えられる。
しかも、本件特許発明は遮断器の操作発条の蓄積エネルギーのあり方につき従来と反対の考え方に立つているのである。すなわち、従来の一般交流遮断器においては、例えば最も広く使用されていた油遮断器についてみてもわかるように、閉路中は遮断発条に発条エネルギーを蓄積し、遮断時にこれを釈放させ、開路中はこの蓄積機構を弛緩状態に置く、という操作エネルギーについての考え方すなわち、遮断器のあらゆる素子を気懸りな態勢に置かないという考え方が一般常識であり、当業技術者もそう考えることに習慣づけられてきたものである。BBC追加特許の遮断器における「開路時には直列の補助開閉器をして開路状態を維持せしめ、自らは閉路状態に安住する」という形態は、明らかに右の旧套的思想が墨守されたものと認めるほかはない。ところが、本件特許発明の遮断器においては、閉路中は接点に対する操作発条は弛緩状態に置かれており、吹付けを行なつて開路状態となつたうえは、遮断室内は引き続き加圧状態に置かれて操作発条は圧縮状態に維持され、そして投入の際圧縮空気の放出と操作発条の釈放が行なわれるのである。
前記のような従来の操作エネルギーのあり方が習慣的に固定概念となつていた時代において、この旧套的思想を突き破るということは容易なことではなく、遮断器を使用する者の側の信頼を得ることの困難さも横たわつていたわけである。本件特許発明は発明者の前記着想のほか技術的信念と勇気とが相まつて実現をみるに至つたものである。前にも述べたように、この発明の完成によつて初めて補助開閉器を附設することを要せず、遮断器それ自体でJEC規格に適格たり得るいわゆる開路時充気式空気遮断器が生まれたのである。この遮断器の出現によつて引例発明の遮断器がほとんど市場価値を失うに至つたのは当然のことといえる。前記のような効果顕著な遮断器が、引例のBBC追加特許発明から容易に推考され得るものであるとすれば、同追加特許から本件特許発明の出願まで七年の歳月を要した事実は到底理解できないところである。
(三) 被告の二(一)6の主張に対する原告の反駁
1 引例の遮断器においても、自動再閉路の場合には、主接点における「投入作用」が認められることは事実である。しかし、自動再閉路は給電持続を目的とし、線路短絡の弧光を消滅させるに足るだけの僅少秒の回路中断を行なうものにすぎない。〔例えば、き(饋)電線に短絡が生じ、遮断器が自動遮断した場合において、短絡の原因を一応弧光短絡と想定し、僅少秒間の開路により弧光の消滅することを予測して再投入し、この投入が成功したとき、すなわち弧光が消滅し再び短絡が生じないときは、そのまま送電が持続できるから、実質的には無停電と同様の結果が得られる。この場合には、遮断器が動作しても、停電のときのように回転電機を停止させ、したがつてこれを再び起動し直す不利を招かないですむ。これが自動再閉路の狙いである。だから、遮断時の接点開放の時間は可及的短時間であるべきは当然で、せいぜい二、三秒程度にすぎない。〕このような自動再閉路の投入は、自動弁のない原始的空気遮断器でも、すなわち遮断時から再閉路までの僅少秒間圧縮空気を放流する仕方を用いても、充分遂行できるものである。なお、自動再閉路の試みが成功しないときは、故障原因が除かれるまで回路が開かれなければならないことは当然であり、引例の遮断器の場合には断路接点すなわち補助開閉器は開かれ、そこで遮断器の接点が閉成されることはいうまでもない。要するに自動再閉路中の投入は、前記のように条件の限られた極めて特殊な投入であり、任意のときに行ない得る投入ではないから、一般の投入とは甚だ異なるものというべきである。引例の遮断器においても右のような特殊な投入が行なわれ得るからといつて同遮断器も本件特許発明の遮断器と同様の投入を行なうものとはいえず、また、右のような自動再閉路の場合の投入ということからは、本件特許発明の要旨を示唆する何物をも引き出すことはできない。
2 被告は、「回路を閉成する場合に、先ず遮断器を開き、次に直列遮断器を投入し、然る後遮断器を投入」するようにしたときの遮断器の動作について述べているが、そのような操作法は、空気遮断器が出現した当初からわかつていたものであり、原始的空気遮断器でも同様の操作ができるのである。すなわち、先ず遮断器を開路させ、そのまま僅少秒間圧縮空気の放流を持続せしめておき、その間に断路接点を閉成し、然る後放流を止めて「投入」を行なえば、被告が述べているのと全く同様の操作になる。しかし、このような迂遠な投入操作は実用的には全く価値のないものであり、引例明細書でも問題にされていないところである。このような非実用的な特殊の投入と本件特許発明によつて初めて達成された「一般的、無条件的な自由な即時投入」とは全然比較にならぬものであり、右のような投入操作法がわかつていたということは、本件特許発明の新規性ないし進歩性に些かの影響をも与えるものでない。
第二、被告の答弁
一、原告主張の一、二、三の事実はこれを認める。
二、本件特許発明の新規性および進歩性に関する原告主張の四の見解についてはこれを争う。
(一) 原告主張の四の(一)について
1 審決引用の明細書(被告が審判で甲第一号証として提示したもの)が、ドイツ特許第六七四、六五二号(原告主張のBBC原特許)の追加特許にかかる発明の明細書であることは認める。しかし、右引例明細書記載の遮断器と本件特許発明の遮断器との差異に関する原告の主張が正当でないことは後に述べるとおりである。
2 原告は「投入」、「閉合」、「閉成」(Einschalten, Einschliessen, Einlegen)という用語を原告主張の意味に区別すべきであるというけれども、これらの用語は、一般にはそのように明確に区別して使用されているわけではない。JEC一四五でも「投入」の語について明確な定義を示していないし、まして「投入」と「閉合」ないし「閉成」との区別については何も明記していない。(以下における被告の主張においても、これらの用語を原告主張の意味に厳密に区別しているものではない。)
3 本件特許発明の「特許請求の範囲」の後段部分に、「遮断器の開路中遮断室が常態的に(次に投入が行なわれるまで)加圧状態に置かれる」という意味での「開路時充気」の思想が包含されているとの原告の主張はこれを争う。
なるほど、遮断室における接点の開放後その状態を永続的に維持させるという点については、引例明細書にも明確には記載されていない。しかし、このような接点開放後の状態そのものは、元来、本件特許発明の要旨にも含まれていないのであつて、このことは、本件に関する審判の段階における原告の主張―原告は、審判事件の第四答弁書において、「本件特許においては、主接点は持続的に開放された状態に保たれているのである。」と述べてはいるが、これに続けて、「仮りにこのことが左程重要でないとしても、これは特許請求の範囲の前文に関連する事項にすぎない。本件特許が特徴とするところは、弁が特別の機能を持つて具現されていることである。」と述べている―からも認められるところである。
4 ところで本件特許発明の要旨として明細書の「特許請求の範囲」に記載されている事項のうち、前段部分が引例明細書の遮断器と同じであることは原告の認めているところであるから、その後段部分と引例明細書の記載とを対照してみると、
(1) 「消弧媒体の流入側における主弁の制御によつて単に接触子の開放と消弧が行われ」の部分については、引例の明細書に「導線(L1、L2)における電流を遮断せんとするときは、制御弁(D)が開放され、したがつて圧力下にある消弧媒質は、(B)を経て室(i)および加圧シリンダ(a)の中に達することができる。その際可動接点(f)は、発条(p)の作用に抗して開放され、弧光が発生し、而して接点(e・f)間および開口(b)を経て流出する消弧媒質によつて吹消が行なわれる。」との趣旨の記載があり、
(2) 「且つ流出側における媒体の流れが阻止された後は、開閉室内の圧力が保持されるだけでなく」の部分については、同明細書に「閉鎖摺動子(g)は発条(h)に抗して運動せしめられ、而してその終端位置において、接点開放に相対的に遅れをもつて開口(b)を閉塞する。今や室(B、iおよびa)は圧力下で流動する消弧媒質をもつて満たされ、而してここに良好な電圧絶縁が作られるから………」との趣旨の記載があり、
(3) 「更に該弁によつて開閉室を空にすることによつて、接触子の自動閉合と、排気口の開放が行なわれ、開閉室の圧力は、接触子の閉合によつて遮断器が投入されるまで保持されることを特徴とする」との部分については、同明細書に「室(B、i、a)を支配する圧力は取り去られてあらねばならない。これはその閉鎖位置で大気中への開口を有する、消弧媒質の流れに対する制御弁(D)を………再閉鎖することによつて行なわれる。室(B、i、a)内の圧力降下に従い、発条(ph)が作用し、この発条は一方では電力開閉器の接点を閉成し、而して閉鎖摺動子を開放する。」との趣旨の記載がある。
これらの記載と、本件特許発明の明細書および引例明細書の各図面とを合せ考えると、引例明細書記載の遮断器にあつても、遮断室内の圧力は接触子の閉合によつて遮断器が投入されるまで保持される構成になつていることを理解することができるのであり、本件特許発明の要旨とするところはすべて引例明細書の記載から容易に読みとることができるのである。
なお、原告は、引例の遮断器は、BBC原特許発明の遮断器に対し吹付時間の余裕をもたせたものにすぎないと主張しているが、BBC原特許発明の明細書には、「圧縮空気開閉器と直列に接続された気中断路開閉器を、時間的には圧縮空気開閉器の開閉過程に無関係に、開放することが可能となる。その際断路器は手により或は圧縮空気により操作することができる。」との記載があり、手動操作による断路器の開閉時間およびこれとの連動操作等を考えれば、BBC原特許発明の遮断器でも、かなり長時間遮断器が開いたままになることも考えられていたと推定される。したがつて、遮断室の接点が開放された状態を持続する時間は、気密技術の問題や使用者側の信頼度等によつて変化するものであり、本件特許発明の遮断器もこの点は同様の関係にあるものといえる。
5 原告は、適当なパツキン環を設けておけば本件特許発明の遮断室および自動弁が極めて高度な気密性を保ち得る旨主張しているが、明細書にはそのような適当なパツキン環を設けることについて何も記載していない。これはその必要がなかつたからと考えられる。なお、本件特許発明の明細書の図面では、自動弁g1~g4のピストンの外側は引例のものと同様に摺動部で気密を保つようになつているし、本件特許発明の遮断器の可動接触子も摺動部で気密が保たれるようになつている。その他弁の構造ないし気密性に関する点については、本件特許発明の明細書にも引例明細書と同様に具体的に記載ないし図示するところがなく、したがつて本件特許発明の遮断器が特に原告主張のような厳重な気密を保持し得るように構成されているものとも認められない。いずれにせよ、気密性の程度は、前記のように、遮断器の使用者側の信頼度や遮断器に対する考え方の如何によつて異なり得るものであつて、本件特許発明の要旨とは関係のないことである。
また弁の作用という点からみても、両者の遮断器は、いずれも、圧縮空気の流入側および流出側に備えた弁によつて、遮断室に圧縮空気を充満させ、主接点を開き、吹付けにより消弧を行ない、さらに遮断室を空にし、これによつて排出口の開放と接触子の閉合が行なわれるようになつており、その接触子の閉合が行なわれるまでは、遮断室の圧力は保持されているわけである。本件特許発明の明細書にも、引例明細書にも、弁の具体的構成が明らかにされているわけではないから、両者の弁の構造の異同を論ずることは暫くこれを措くとして、その作用自体は両者間に格別顕著な差異があるものとも認められない。
6 引例明細書には、直列気中断路器についての記載があるけれども、これは、引例の発明に関する特許出願当時同発明を直列断路器付遮断器に適用することが出願人の念頭におかれていたため、直列断路器との相互関係が明細書に記載されているのである。しかし、引例の遮断器の新規性は、あくまでも、開閉室の下流側に閉鎖弁を設け、遮断動作後接点を高圧空気中に保持し断路器が開くまでの回路絶縁をこの部分で行なわしめ、またこの高圧空気を排除することにより接触子を閉じることにあり、断路器との相互動作関係は二義的なものと考えられる。例えば、「ブラウン・ボベリー・レビユー」一九三九年三月号には「ブラウンボベリー空気遮断器では再閉成は消弧接点で行なわれる」旨の記載があり、これは高速度再閉路の際には遮断点で投入を行なわせるということであつて、BBC原特許発明の遮断器においてさえ、全くそのままの動作を行わせることができる。この場合直列断路器が必ず遮断接点の閉合よりあとで投入するという条件はなくなつており、BBC原特許発明の遮断器で開閉表示用と称する直列断路器があるのと全く差異がなくなる。
すなわち、いずれの特許の遮断器でも、気密性に自信がない場合或は使用者側で高圧ガス中での回路絶縁を好まないときは、先ず遮断器を開き、次に直列断路器を開き、遮断器を投入して、開路動作を完了せしめるし、回路を閉成する場合は、先ず遮断器を開き、次に直列断路器を投入し、然る後遮断器を投入すればよいということになる。このようにした場合、引例の遮断器も、BBC原特許の遮断器も、本件特許発明の遮断器も、同様に、閉合力(すなわちバネ)に抗して圧縮空気の力で接触子が開き、その後開閉室下流側で阻止弁が働いて、高圧空気中で接触子間の絶縁が保たれ、圧縮空気が排除されるとバネの力で投入するという全く同一の動作を行なうのである。
本件特許発明の明細書においても、附記第三項以下に断路器との併用についての記載があり、前述したところからして、この断路器と引例の直列気中断路器との間にはなにも本質的な差異はない。原告は本件特許発明の遮断器と併用する断路器は単なる見取り用のものであると主張するが、単なる見取り用ならば表示灯を用いれば足りるのであつて、わざわざ高価な断路器を用いる必要はないのである。
(二) 原告主張の四の(二)について
仮に、本件特許発明の要旨が、引例明細書に容易に実施できる程度に記載されていたものと認めることができないとしても、少なくとも引例の記載から容易に推考し得たものである。すなわち、前項6で述べた「ブラウン・ボベリー・レビユー」の記載によつて遮断器の開閉部で投入を行なうという技術思想が本件特許発明の特許出願前から表明されていたことが認められるのであり(右刊行物の記載は自動再閉路の場合に関するものであるが、これに限定されるという趣旨の記載はない)、また、接触子が開かれた後その閉合によつて遮断器が投入されるまでの時間をどのようにするかは、当業者が必要に応じて容易になし得る程度の設計上の問題にすぎず、殊に本件特許発明の遮断器における自動弁等が長時間開路を保持し得るようになつているという具体的な構成が明細書に明らかにされていない以上、本件特許発明の要旨とするところは、少なくとも引例明細書に前記「ブラウン・ボベリー・レビユー」の記載を合せて、当業者が容易に推考し得る程度のものといわねばならない。
したがつて、審決が本件特許を無効とすべきものと判断したことに何ら違法はない。
第三、証拠関係<省略>
理由
一、原告が本件特許第二二二、八八一号発明の特許権者であり、この特許発明が昭和二九年九月二〇日原告主張の優先権主張のもとに出願され昭和三一年六月八日に特許されたものであること、被告と原告との間における右特許の無効審判請求事件の特許庁における手続経過および審決要旨が原告主張のとおりであることは当事者間に争いがない。
二、本件特許発明の要旨
本件特許発明の明細書に特許請求の範囲として記載されている事項が「圧力下で流れる消弧用媒体と、該消弧媒体によつて閉合力に抗して開く接触子とを有し、消弧後は消弧媒体の流れが流出側において阻止され、このために開放した接触子が媒体の圧力下に置かれるようにした遮断器において、消弧媒体の流入側における主弁の制御によつて、単に接触子の開放と消弧が行われ、且つ流出側における媒体の流れが阻止された後は、開閉室内の圧力が保持されるだけでなく、更に該弁によつて開閉室を空にすることによつて接触子の自動閉合と、排気口の開放が行われ、開閉室内の圧力は、接触子の閉合によつて遮断器が投入されるまで保持されることを特徴とする遮断装置」であることは当事者間に争いがない。
そして、成立に争いのない甲第一号証(本件特許発明の明細書を掲載した出願公告公報)によれば、本件特許発明の意図するところは次のとおりであることが認められる。すなわち、従来の空気遮断器、例えば消弧用圧縮ガスにより接触子を操作し圧縮ガスが取り除かれると接触子が自動的に閉合する型のものや、開放・閉成が常に圧縮ガスの加圧下で行なわれ、遮断時のみガス流を作つてやるようにした型のものは、ガスの排出口側でガス流を制限しなければならないので、構造が複雑となり且つ高価なものになるという欠点があつた。また、圧力によつて流れる消弧媒体によつて消弧し、且つ接触子をこの媒体で閉合力に抗して開くようにした遮断器において、消弧後消弧媒体の流れが流出側において阻止され、開放した接触子が消弧媒体の静圧下に置かれるようにした型のものも知られているが、この種のものは、開放後の線路電圧を絶縁するため別に断路器を直列に設け、遮断器の接触子が開いて電流を切ると断路器が開き、断路器が開くと接触子が再び閉合するように、連結されているので、このための特別な駆動機構や連結杆を必要とし、これもまた構造が複雑で高価なものとなり、そのうえ故障も起り易いという欠点があつた。そこで、本件特許発明は、これらの欠点を取り除くことを目的とし、遮断器の開閉動作を一個の弁のみによつて制御し、さらに遮断器の操作には、開閉室内および支持碍管の中にある消弧媒体が使用されるだけで、他に特別な制御用のパイプとか連結装置とかを不必要とし、構造が簡単で消弧媒体の使用も極めて少なくてすむようにしようというものであり、接点が高圧ガスによつて十分に絶縁された状態で開路を維持し、この遮断器だけで線路の投入ができ、他にこれと直列の補助的な遮断器(開閉器)を接続しておく必要のない遮断器を提供せんとするものである。
(以上の甲第一号証公報の記載において「投入」、「閉合」、「閉成」なる用語は、甲第一号証公報の記載全体の趣旨からみて、原告主張の意味で使用されていることを理解することができる。すなわち、「投入」は接点の接触により電流の流れる場合についていうものであり、「閉合」、「閉成」は単に接点を接触させる動作ないし接触している状態を指すに止まり、接点の接触により電流の流れることを前提とする趣旨を特に含めていうわけでない場合についていつていると解される。右用語の一般的用法については当事者間に争いの存するところであるが、本件の判断に関し以下の説示において右の用語を使用するときは、用語の混乱を避けるため、右と同一の意味において使用するものとする。)
次に、前記甲第一号証に本件特許発明の実施例として記載されているものについてみるのに、その遮断器の構造(別紙Ⅰの第一・第二図参照)および作用は次のとおりであることが認められる。
(1) 構造 直列に接続された複数の接点a1・a2・a3・a4を有し、これらの接点は金属製の底部および頭部を備えた碍管によつて形成される開閉室(遮断室)内に収められてあつて、各開閉室は相互に連通し、且つ圧縮ガス容器cに通じている。
右の各開閉室は支持碍管bの上に積み重ねられており、この支持碍管は同時に開閉室に圧縮ガスを供給するパイプの役目をも有する。接触子を動かし且つ電弧にガスを吹きつけるための主弁d1が圧縮ガス供給装置の側に設けられている。開閉室内にはそれぞれ弁g1・g2・g3・g4が設けてあり、これらの弁は圧縮ガスの流出口を有し、平常は流出口を閉塞するように附勢され、ガスの圧力が加わるとこれが押し開かれ、ガス圧時限装置によつて、ある一定の時間が経過すると再び閉塞するような構造になつており、この弁が開いている間に圧縮ガスが接点に自由に通されて電弧を消し、直ちにその間を絶縁する。(前記のガス圧時限装置としては、一般に使用せられるフイゴ型空気制動式のものが適当であり、所要の時限装置はフイゴに設けられた空気逃げ出し用の孔の大きさを調節することによつて加減することができる旨例示されている。
なお、消弧後圧縮ガスの流れが阻止された後も、引き続きその圧力を維持するための気密保持に関する装置の構造については、他に図面において極めて概略的に示されているのみで、この点に関する明細書の記載は十分なものとはいえないけれども、開閉室における圧縮ガスの圧力を継続的に維持するに足る気密性を具えた構成となつていることを当然予定していることは明細書の記載全体から十分に認め得るところであつて、ただ右の点に関する装置それ自体は発明の要旨に包含される事項でないとしてこれを具体的に詳述していないものと解される。)主弁d1は、接点への圧縮ガスの流入のみならず、さらに開閉室からのガスの排出をも併せて制御するように構成される。(その一例として、主弁d1に補助弁d2を連結し、主弁によつて排出口hを制御する構造を有し、補助装置eが、開閉室内のガス圧に応じて表示要素fを通じて遮断器の状態を表示するようにしたものが示されている。)
(2) 作用 別紙Iの第一図は、閉成の状態を示すものであつて、主弁d1は閉じ、補助弁d2は排出口hを開いており、各接点および弁g1ないしg4はいずれも閉じている。したがつて開閉室内は大気圧下にある。いま、この遮断器を第一図の閉成の状態から第二図の開放の状態にするためには、まず主弁d1を開き、圧縮ガスを開閉室内に送入する。そうすると、右各接点および弁g1ないしg4が開き、圧縮ガスは、各接点間に生ずる電弧を吹き消して、右弁g1ないしg4における流出口から室外に放出される。一方、主弁d1が開かれると同時に、補助弁d2は排出口hを閉塞し、ガス圧時限装置によつて設定された時間が経過すると、弁g1ないしg4は再び閉じるから、開閉室および支持碍管b内には圧縮ガスが満たされ、開放された接触子は、このガスによつて取り囲まれて、十分な絶縁強度が与えられる。したがつて、接点間は、圧縮ガスの加圧下において開路の状態が維持されるわけである。
次に、この開路の状態から第一図の状態に移すためには、主弁d1を閉じれば、補助弁d2は排出口hを開くから、容器cからの圧縮ガスの供給が絶たれるとともに、支持碍管および開閉室内の圧縮ガスは右排出口hより排出され、接点a1ないしa4の可動接触子は、発条の作用によつて固定接触子と接触し、各接点を閉合するに至り、これによつて遮断器の投入が行なわれることになる。
以上認定したところを総合すれば、本件特許発明の要旨とするところは、
「(1) 遮断弧光に対し加圧状態で流過する消弧媒体と、その消弧媒体の圧力によつて閉合力に抗して開く接点とを有し、右の消弧媒体の流れが消弧後流出側において阻止され、そのため、開放された接点が加圧されている消弧媒体によつて取り囲まれるようにした遮断器において、
(2) 遮断に際し、消弧媒体の流入側における主弁の操作によつて、接点の開放と吹付け・消弧が行なわれ、流出側において消弧媒体の流れが阻止された後は引き続き(後記投入が行なわれるまで)開閉室内における消弧媒体の圧力が維持され、これによつて接点間の電圧分離が保たれるものであり、投入のときは、前記主弁の操作によつて、開閉室内の消弧媒体が排出され、接点の自動的閉合と排気口の開放が行なわれ、右接点の閉合によつて投入が行なわれるようにした遮断装置」
にあるものと認めるのが相当である。そして、右(2)の構成をそなえているため、電圧分離および投入がこの遮断器だけによりそれぞれ主弁の操作をもつて行なわれ、他になんら補助的な断路開閉器を必要としない点にその特徴を有するものということができる。(なお、甲第一号証の公報の記載からみて、前記遮断器は、大電流遮断用に適せしめるため、主接点を複数個設け、前記主弁の操作によつて複数の直列状態にある遮断区間における開閉が同時に行なわれ、その際各開閉室は連絡状態に置かれるものを予定しているものと考えられる。)
被告は、接点の開放後開閉室が常態的に(次に投入が行なわれるまで)圧縮ガスの圧力下におかれることは本件特許発明の要旨に含まれない旨主張し、或は本件特許発明の要旨に関する原告の主張が審判手続と本訴とで異なつているように主張するけれども(答弁二の(一)の3)、甲第一号証公報の特許請求の範囲および発明の詳細なる説明の記載全体と図面の記載を合わせ考えれば、本件特許発明の要旨は前記のように認定するのが相当であり、また、成立に争いのない甲第三号証の一ないし六(審判手続における第一ないし第六答弁書)の記載に本件口頭弁論の全趣旨を合わせ考えれば、原告が特許庁において主張したところも、その大筋において本訴における主張と一致しており、ただ本訴においてその主張をさらに明確にしたにすぎないものと認めることができる。
三、引例発明の遮断器について
成立に争いのない甲第二号証の二(ドイツ国特許第六九〇、三七二号明細書)によれば、審決が本件特許発明の特許無効原因を認めるにつき引用した右ドイツ国特許明細書(この明細書が本件特許発明の出願において主張された優先日より前である昭和一五年一〇月一五日に特許局陳列館に受け入れられ一般に公開されたものであることは当事者間に争いがない。)に記載されている遮断器は、次のような構成および作用効果を有するものであることを認めることができる。
別紙IIの第一・第二図は、引例発明の実施例であつて、電流の遮断を受け持つ電力遮断部のみが図示され、電圧分離を受け持つ直列気中開閉器(原告主張の補助開閉器)は省略されている。
電流の遮断は、圧力下にある消弧媒体の流入側に設けられた制御弁(D)を開くことにより、支持碍管内の室(B)から絶縁管(i)を経て消弧室(a)に達し、消弧媒体によつて可動接触子(f)が発条(p)の弾発力に抗して押し下げられて、固定接触子(e)と離間することによつて行なわれる。可動接触子(f)と固定接触子(e)が離間する際に発生する弧光は、接点(e・f)間を流動し消弧室(a)に設けられた開口(b)から流出する消弧媒体によつて吹き消される。一方、圧力下にある消弧媒体は、開口(o)〔第一図に示す実施例の場合〕または管(s)〔第二図に示す実施例の場合〕を経て、シリンダ(n)に入り、閉鎖摺動子(阻止弁)(g)に対するピストンの上に達するので、右摺動子(g)は発条(h)に抗して上昇〔第一図〕または下降〔第二図〕せしめられ、接点の開放より若干の遅れをもつて前記開口(b)を閉鎖する。したがつて、室(B・i)および消弧室(a)は消弧媒体の圧力下にあることとなる。かくして、両接触子が加圧下において開路の状態にある間に、遮断接点と直列に接続されている(図示されていない)気中開閉器が開き、この気中開閉器が開かれた後に制御弁(D)が閉じ(気中断路接点の開放前に右制御弁が閉鎖するようにすることもできるが、この場合には気中断路接点の開放後まで消弧室内に圧力を保つための特別の弁の設置が必要である。)、室(B・i)および消弧室(a)を加圧状態から解除する。この圧力の降下に伴い発条(p・h)が作用し、これによつて可動接触子(f)を発条(p)の作用により上昇せしめ、固定接触子(e)の接触係合せしめるとともに、他方阻止弁(g)も開口(b)を開放して、消弧室(a)は再び大気圧下に置かれることとなるのである。
それゆえ、この遮断器は、遮断部において電流の遮断作用が行なわれた後に、これに附属する直列気中開閉器が開かれて、ここで電圧分離が行なわれ、電圧分離が行なわれた後遮断部は再び閉合し(遮断室が消弧媒体の圧力下に置かれるのはこの閉合に至るまでの段階までである)、その後は大気圧下において閉成の状態を維持するものであるということができ、したがつてまた、投入は、遮断部が閉成の状態にある時に、直列気中開閉器を閉じることによつて行なうことになつているものと認めることができる。
被告は、引例発明の遮断器も、開閉室内の圧力は接触子の閉合によつて遮断器が投入されるまで保持される構成になつている旨主張しているが、この遮断器では電圧分離は直列気中開閉器が受け持つており、開閉室内の圧力が維持されるのは、消弧が行なわれた後でも、直列気中開閉器が開いて電圧分離が行なわれ、続いて制御弁(D)の閉鎖により開閉室(消弧室)(a)内の接触子が閉合するまでの間の段階だけであつて、その後引き続いて、次に投入が行なわれるまで右加圧状態が維持されるものでないことは、甲第二号証の二の明細書の記載全体の趣旨からみて明らかである(右甲第二号証の二の明細書には、「遮断過程中圧力下に置かれる室………」・「遮断過程中消弧の行なわれた後圧力下にある電力開閉器………」等の趣旨の文言の存することが認められるが、そこに「遮断過程」といつているのは、開閉室の接触子の開放後前記直列気中開閉器の断路接点の開放と開閉室の接触子の再閉合とが行なわれるまでの段階を指しているものと解される。)そして、他に引例発明の遮断装置の構成および作用に関する前記認定を左右するに足る資料はない。
四、本件特許発明の遮断器と引例発明の遮断器との異同について。
以上認定したところに基いて、両者を対比しその異同を整理してみると次のとおりである。
1 本件特許発明の遮断器も、引例発明の遮断器も、遮断弧光に対し加圧状態で流過する消弧媒体と、その消弧媒体の圧力により閉合力に抗して開放する接点とを備え、右消弧媒体の流れが消弧後流出側において阻止され、そのため開放された接点が加圧されている消弧媒体によつて取り囲まれることになる時期をもつものである点は、それが一時的であるか継続的であるかを問わないとすればそのかぎりにおいて、同一であるということができる。以上の点については、原告も、本件特許発明の要旨中前提事項に属するところであるとして、新規性を主張していないものであることは、その主張によつて明らかである。
2 しかしながら、前に認定したように、本件特許発明は、従来の空気遮断器において、電圧分離および投入を分担させるために必要とした直列気中開閉器(補助開閉器)を不要とすることを意図したものであつて、開路中圧縮ガスの圧力下にある遮断器の遮断部は、電圧分離をも行なうに十分な要件を具えたものとされており、右遮断部が電流の遮断とともに電圧分離をも併せ行ない、後に主弁の操作により遮断部の圧縮ガスが排除されて接触子が閉合し、これによつて投入が行なわれるまで遮断部の前記加圧状態が維持されるものである。換言すれば、この遮断器は、電流の遮断・電圧分離および投入のすべてを遮断部で行ない、遮断部は、閉路中は大気圧下にあるが、開路中は常時高気圧下に置かれるもので(この意味で開路時充気式といえるし、また半常時充気型ともいえる)、補助開閉器を具有しないのが特徴である。
これに対し、引例発明の遮断器は、その遮断部(消弧室)においては電流の遮断のみを行ない、電圧分離と投入は、右遮断器に附属する直列気中開閉器(補助開閉器)によつて行なうのであつて、遮断器と直列気中開閉器とが相まつてはじめて右の電流遮断・電圧分離および投入の作用を営み得ることになつているのである。この遮断器では、開路中の遮断部は大気圧下にあつて、接触子は閉成の状態にあり、本件特許発明の遮断器における遮断部のように、高気圧下において、接触子が開放した状態で開路を維持しているのではないのである。引例発明の遮断器が高気圧下に置かれるのは、消弧室の接触子が開いてから直列気中開閉器の開放直後までの間すなわち引例発明の明細書にいう「遮断過程」中だけにすぎない。したがつてこれを、時間に関係なく、開路中常時遮断部が高気圧下に置かれるものとしている本件特許発明の遮断器にみられる開路時充気の技術思想と同一視することは到底できないところである。すなわち、前記1で述べた両者の共通点は、実は、遮断部が消弧されてから極く短時間の間だけをとつてみれば、両者はいずれも遮断部が開放状態において高気圧下にあるという点で一致するというにすぎず、一はその間だけのことであるに対し他はその後も時間に関係なくその状態が継続するという点では、顕著に相違するものといわねばならない。
五、被告主張の二、(一)の4および5について。
被告は、本件特許発明の要旨はすべて引例発明の明細書に開示されている旨主張するけれども、被告が指摘している引例明細書の記載は、すべて前記の「遮断過程」における引例発明の遮断器の動作について述べたものであつて、右明細書の記載全体の趣旨からみて、引例発明の遮断器の構成および作用につき前に認定したように理解すべきことは明瞭である。
被告は、BBC原特許発明の明細書には、「圧縮空気開閉器と直列に接続された気中断路開閉器を、時間的には圧縮空気開閉器の開閉過程に無関係に開放することが可能となる。その際断路器は手により或は圧縮空気により操作することができる。」との記載があることからみて、BBC原特許発明の遮断器でもかなり長時間遮断部が開放の状態を維持することも考えられていたと推定される旨主張している。しかし、成立に争いのない甲第五号証(ドイツ国特許第六七四、六五二号明細書、すなわちBBC原特許発明の明細書)によれば、同発明の遮断器も、電力開閉器と気中断路器とで構成され、前者が電流の遮断を後者が電圧分離を受け持つものであつて、制御弁の開放により、圧縮ガスによる接点の分離および消弧が行なわれた後、消弧媒体の流出路が閉鎖され、開放された接点が圧力下にある消弧媒体で満たされた消弧室内で対立することになると、そこで気中断路開閉器が開かれ、これが開かれると制御弁が再び閉鎖され、圧縮空気が消弧室から流出し、開閉器の接点が再び閉成状態となるものであつて、避断部における接触子が分離された状態になつているのは、消弧を経て気中断路器の開放直後に至るまでの短時間であり、被告のいうように長時間右の状態が維持されることが予定されているものでないことは、右明細書の記載全体の趣旨からみて疑のないところというべきである。
また、被告は、本件特許発明の遮断器が特に引例発明の遮断器に比し厳重な気密保持をなし得べき装置を有することにつき明細書に具体的に説明ないし図示されておらず、弁の作用の点からみても両者間に格別の差異はない旨主張する。なるほど、本件特許発明の明細書における右気密保持の手段に関する記載が不十分なものであることは被告の主張するとおりである。しかし、前にも述べたように、右の気密保持のための装置をどのようにするかということそれ自体は、本件特許発明の要旨外の事項なのであり、必ずしも本件特許発明の明細書の中で詳細な説明をなすことを必要とするものではない。そして、同明細書における発明の詳細なる説明の記載と図面とによれば、開路中遮断部が高気圧下に置かれるという状態が維持されるような気密性を備えた構造になつていることを前提としている趣旨は十分認め得るところである。これに対し、甲第二号証の二、同第五号証の各明細書(引例発明の明細書、BBC原特許発明の明細書)にあつては、消弧室が高気圧下に置かれた状態を直列気中開閉器の開放後も長時間引き続き維持するに足る十分な気密性保持の構成になつていることを前提とするような趣旨をうかがい得べき記載は全然ないのである。逆に、前にも述べたように引例発明およびBBC原特許発明の遮断器が電圧分離を直列気中開閉器に受け持たせる構成になつていて、右開閉器が開けば制御弁が閉じて消弧室の接触子がふたたび閉合し、その状態で開路が維持されるものであることはその各明細書の記載によつて明らかである以上、前記気密性保持を前提とする趣旨の記載がないことは当然のことともいえるわけである。また、主弁の操作に伴う作用の相違については、既に本件特許発明の遮断器と引例発明の遮断器の構成および作用の相違として説示したとおりである。それゆえ、被告の前記主張はいずれも理由がない。
六、被告主張の二(一)の6について。
本件特許発明の明細書の附記第三項以下に、遮断器に断路器を附設した装置についての記載があることは、原告も認めているところである。しかし、本件特許発明にあつては、遮断器自体で電圧分離および投入をなすものであり、断路器が右の作用を受け持つものでないことは前に述べたとおりである。右附記第三項以下に記載されている断路器は、単なる見取り用のものとして、すなわち遮断器が開路の状態にあるか閉路の状態にあるかを外部から一見して認識できるようにする必要のある場合に、そのための装置として附設することもできるという趣旨で記載されているものであることは、甲第一号証公報の発明の詳細なる説明の項特にその末項の記載に徴しても明らかである。引例発明の遮断器に設けられている直列気中断路器(補助開閉器)が電圧分離および投入の作用を受け持つもので、右遮断器が遮断路器としての役割を果たすために必要不可欠のものであること前に認定したとおりであるのと対比して、本質的に相違するものということができるし、また、被告のいうように右直列気中断器をもつて遮断器に対し二義的な意義を有するにすぎないものとすることは失当であるといわねばならない。
次に、被告の主張する高速度再閉路(自動再閉路)の場合の投入について考えるに、右は原告が詳細に反論しているように、特殊の場合にのみ行なわれるものであつて、本件特許発明の遮断器において、なんら特別の条件を前提とせず任意の時に行ない得る投入と同視することのできないことはもちろんである。引例発明の遮断器も右のような特殊の場合には遮断部において特殊の投入が行われ得るということは、前に認定した本件特許発明の遮断器との相違点に関する認定になんらの影響をも及ぼすものではない。
なお、被告は、開路動作として、「先ず遮断器を開き、次に直列断路器を開き、しかる後遮断器を投入し」、閉路動作として「先ず遮断器を開き、次に直列断路器を投入し、しかる後遮断器を投入する」という順序で操作すれば、本件特許発明の遮断器も引例発明の遮断器も作用上差異がないといつたような趣旨の主張をもしているが、前に認定したように、本件特許発明は、引例発明およびBBC原特許発明の各遮断装置において電圧分離および投入の作用を分担した直列気中断路器を廃し、遮断器自体にこれを行なわせることにしたことを特徴とするものであるから、被告の右主張は採用し得ないこと明らかである。
七、被告の二の(二)の主張について。
被告は、仮に本件特許発明の要旨が引例明細書に容易に実施できる程度に記載されていたものでないとしても、引例明細書の記載と自動再閉路の場合に遮断器の遮断部で投入を行なわせるという公知の技術思想から容易に推考し得る程度のものである旨主張する。しかしながら、本件特許発明が、前記認定のように、「開路時充気」すなわち開路時中常態的に遮断部を圧縮ガスの圧力下に置くという新規の技術思想に立脚して、引例発明の遮断器において電圧分離および投入を受け持たせるため必要不可欠とされた直列気中断路器を廃することに成功したものであつて、引例発明に比しその構成および作用効果上顕著な差異の存することが明らかであること、甲第二号証の二および同第五号証によつても、BBC原特許発明の明細書はもちろん引例発明の明細書にも本件特許発明の要旨とするところを示唆するような記載の存することが認められないこと、右甲第二号証の二および本件口頭弁論の全趣旨によれば、本件特許発明の第一図における特許出願が引例発明の特許後約七年後に同一出願人によつてなされたものであることが認められ、その間他に本件特許発明のものと同種の遮断器についての考案が試みられ或は出現したことをうかがうに足るなんらの資料もないこと、被告の主張する自動再閉路の場合の投入が本件特許発明における投入と全く異なるものであること前に認定したとおりであることを合わせ考えれば、本件特許発明の遮断器と引例発明の遮断器との構造上の相違を単なる設計上の問題にすぎないとし、ないしは、前者が後者から容易に推考し得る程度のものであるとするのは妥当でなく、したがつて被告の前記主張は採用することができない。
八、結論
以上説示のとおりで、本件特許発明が引例明細書に容易に実施し得べき程度に記載されていたものであると認定し、旧特許法第一条の新規な発明に該当しないとしてその特許を無効とすべきものと判断した本件審決は、その判断を誤つたものであり、違法なものとしてその取消を免れない。
よつて、その取消を求める原告の本訴請求を認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 山下朝一 多田貞治 古原勇雄)
別紙I
第1図<省略>
第2図<省略>
別紙II
Fig.1 図<省略>
Fig.2 図<省略>